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判例編16:自筆証書遺言の印鑑

太郎さんは自筆証書遺言を作成し、一郎さんに全財産を相続させる旨を記載していましたが、印章による押印ではなく、太郎さんの拇印が押されていました。この遺言に不服のある次郎さんが遺言の要件を備えていないとして、遺言の無効を求める裁判をしました。

 

そもそも自筆証書遺言の要件は、民法968条に「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び指名を自書し、これに印を押さなければならない。」とされています。

 

「印を押さなければならない。」というのは、遺言の全文等の自書と相まって遺言者の同一性および真意を確保するとともに、文書の完成を担保することにあります。その「印」が拇印であっても、遺言者の真意の確保に欠けることはないし、日本の慣行上他の重要な書類も拇印が押されているケースがあるため、印章による、つまり普通の印鑑による印でなくても拇印でも構わないと裁判所は判断しました。

 

拇印だと亡くなったあとに本人の指紋と照合できないのではいかという疑問もありますが、普通の印鑑でもいわゆる三文判はどこでもありますので、これも照合は難しいですし、自筆証書遺言は実印と印鑑証明書までは求めていませんので、文書が完成しました、という意味の印があればそれでよい、ということでしょうかね。

 

自筆証書遺言は簡単に書けるとは言え、ちゃんと要件がありますので、それを踏まえていなければなりません。自筆証書遺言に不安がある場合には、やはり公正証書遺言をお勧めします。手間や費用はかかりますが、あとのトラブルにはなりにくいという安心はあります。

 

当事務所でも遺言の書き方のアドバイスや公正証書遺言のための公証役場との調整などもさせていただいておりますので、遠慮なくご相談くださいませ。

 

今回の参照判例:最1判平成1年2月16日民集43巻2号45項